【上原ひろみさんインタビュー】運命の出会いが生み出す、新たな可能性とは? 

Spark GINGER取材班

圧倒的なテクニックと卓越した音楽性で、ジャンルを超えたパフォーマンスを世界に発信し続けている、ピアニストの上原ひろみさん。今年5月には、ジャズ・ハープ奏者のエドマール・カスタネーダさんとのデュオという新しいプロジェクトをスタートさせ、注目を集めています。その世界ツアーのなかから、カナダはモントリオールでのライブを収録したアルバムが9月20日(水)にリリース! ふたつの楽器が織りなす新次元の音楽が詰まったこのアルバムについて、お話をうかがいました。

2017.09.21 更新

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「初対面の人と話が弾むような」運命の出会い

 

――まずは「運命を感じた」というカスタネーダさんとの出会いについて教えてください。最初に彼の演奏を聴いたときの印象はいかがでしたか?

 

それまで私がハープに対して持っていたイメージは、クラシックのオーケストラのなかでエレガントに、美しく音を奏でる、流麗な楽器というもの。でも昨年のモントリオール・ジャズ・フェスティバルで初めて彼の演奏を聴いたとき、ハープという楽器があんなにもパッションに溢れていて、リズムやグルーヴを生み出すものだということを初めて目撃して、びっくりして…!

 

 

――最初から「この人とやりたい!」と?

 

そうですね。そのときは一緒に演奏したわけではありませんが、すごく共鳴するものを感じました。音楽をやるうえでの言語は共通なので、彼と私は「ライブを通して得たいもの」が似ていて、エネルギーレベルも同じだと直感しましたね。私がライブに求めているのは、毎回がチャレンジで、すべてを出し切るということ。彼のソロ公演を見たときに、ひとつも残すことなしにすべてを出し切るプレイヤーだと感じたので、そこにとても共感しました。

 

 

――その後初めて一緒にセッションされたときは、いかがでしたか。

 

これは彼も言っていることなんですけど、初めてリハーサルで合わせたときの最初の数分間のことは鮮明に覚えています。私が自分の言葉で言うならば、今まで一緒に演奏してなかったということが信じられないくらい、しっくりくるというか。

エドマールはもともと、ピアノとハープはとても似た楽器なうえに、それぞれがソロ楽器として完結しているから、一緒に演奏するのは難しいと思っていたみたいです。場合によっては互いのいいところを殺し合ってしまうのではないかと。一方の私はそんなことは考えず、ただ純粋にやってみたいと思っただけなんですけどね(笑)。それにいざやってみると、想像していた以上に音が共鳴しあって……出会うべくして出会ったなという気がしました。それが彼にとってはものすごい衝撃だったそうです。殺し合うどころか、お互いにすごく自由でいられる。フリーダムを感じたと。ステージ上で自由でいられるっていうのはとても大きいことだと、いつも彼と言っています。

 

 

――その「自由」というのはどういう感覚なのでしょう? 

 

楽器を弾いていない人にもわかっていただけそうな感覚としては、初めて会った人とものすごく話が盛り上がるのに似ています。話をして、自分の思いに共感してもらうこともそうなんですけど、相手から新しいアイデアをもらって「なんておもしろいアイデアなんだろう!」ってまた刺激を受けて、さらにおもしろい意見が出てきたり。そういう風に、お互いを感化しあえる出会いってときどきありますよね。それにとても似ています。

普通の人間関係と同じで、理屈では言えない相性の問題でもあるので、そういう出会いを感じる瞬間ってとっても貴重。そして、この人と演奏したらおもしろいんじゃないかと思っても、タイミング的にご縁がない場合もありますし、そこでお互いに惹かれあってプロジェクトが組めて、ツアーができて、アルバムが出せるっていうのは、すごく強いご縁だと思います。

 

”制約”が新たな可能性を生む

――運命の出会いとはいえ、ハープとの演奏は初めてとのことで、苦労されたことなどなかったのでしょうか。

 

演奏というよりも、まず曲を書くために、ハープという楽器のことを知る必要がありました。構造的にピアノに似ているとはいえ、やっぱり非なるもので、ピアノでは弾けてもハープだと弾けない音階というのもあるので、それを踏まえて曲を書かなくてはいけない。すると、いつもの自分が曲を作るならこういうコード進行にするけれども、ハープだとそれはできないのでじゃあこっちだなって考えていくことになるんです。これって、制約があるからこそいつもと違う方向に曲を“書かされる”というか、制約が新たな可能性になるということ。それを強く感じたので、結局はハープを勉強することは苦労というよりとてもおもしろい過程でした。

 

 

――そうして生まれたのが、書き下ろし曲『ジ・エレメンツ』。空気、大地、水、火……さまざまな風景が見える曲ですが、何からインスピレーションを得て作曲されたのでしょう。

 

今回はやはり、エドマールのプレイスタイル、そしてハープという楽器そのものから受けたインスピレーションがとても大きかったです。ハープの音色をイメージして曲を書いていたら、本当に自然界に存在する音に近い気がして、それで風や水というアイデアが浮かんできて。それは具体的にどこかの風景というよりも、もっとスケールの大きなもの。例えば水といってもいろいろありますが、ざっと降る雨もあれば、さらさらと流れる小川の水だったり、ぽつぽつと落ちる一滴のしずくだったり……表現を変えることで、毎日違う水を感じられる。私たちの演奏は即興演奏がメインなので、まさにぴったりな題材だなと感じています。

 

 

――実際に演奏されているときは、考えているというよりも、映像がそのまま音になるような感覚なのでしょうか。イメージは次々と湧いてくるのですか?

 

映像として見えますね。思い浮かんだ映像を、その瞬間その瞬間、音として紡ぎだしていくような感じかな。音にすることで、その映像をお客様にも見てもらえたらと思っています。

でも、アイデアが出てこないことはよくあります。一度見たことある風景って、初めて見た風景より感動しないので、どんどん描写を変えていきたいなって気持ちはあるんですけど、どうしても同じ風景になってしまって、もう一歩進めないときっていうのはありますね。

 

 

――聴いていると、次から次へと生まれているようにしか思えません。

 

ふふ、そうだったらいいんですけどね。もちろん、お客様に来てよかったと喜んでいただけるのは最低条件というか、プロとしてクリアしなくてはいけないところなので、出てこない日もダメというわけではありません。一方で、本当にときどき、自分でも「なんだろうこれ」って思うほどにどんどんイメージが湧いてくる日もあるんですけど、いつもではないんですよね。

あとはそう、誰かと一緒に演奏していると、今日はこの人調子いいなとか、挑戦的な演奏が全部うまくいってるなって手に取るようにわかるのに、自分が乗り切れなかったりとか……そういう波が、お互いにあるんですよね。ふたりとも今日はビンゴ!みたいな日は本当に少ないんですよ。

 

 

――自分ひとりでない分、余計に難しいのですね。

 

でも相手がいると、感化されて新しいアイデアが浮かぶことがあるので、ソロよりは可能性があるというか(笑)。「あ、何かおもしろいことやってるな」ってお互いを刺激して、相手の力を引き出し合うことができるので、そういう意味ではステージ上にパートナーがいるということは、すごく心強いことではありますね。

 

2017.09.21 更新

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