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雨の休日、何して過ごす? 音と言葉で満たされる「音楽小説」の世界へようこそ

Spark GINGER取材班

じめじめと蒸し暑い日が続く今日この頃。自宅でのんびりと読書をするにはうってつけの季節です。さて何を読もうかと迷っているあなたへ、今回ご紹介したいのは、豊かなイメージの広がりを堪能できる「音楽小説」の世界。
例えば、直木賞&本屋大賞のW受賞で話題となった『蜜蜂と遠雷』(恩田陸 著/幻冬舎)も「音楽小説」のひとつ。作中に登場する曲を集めたCD『蜜蜂と遠雷 音楽集』の発売記念イベント「音楽小説を《聴く》」でその魅力を語った、音楽ジャーナリスト・評論家の林田直樹さんと、本屋大賞実行委員の高頭佐和子さんの言葉に注目してみましょう。

2017.07.10 更新

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音楽の力によって、もっと小説が好きになる

林田 昨年本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』(宮下奈都 著/文藝春秋)といい、今年の『蜜蜂と遠雷』といい、本屋大賞には音楽がテーマとなった小説が頻繁にノミネートされている印象です。「音楽小説」の人気には、何か理由があるのでしょうか。

 

高頭 過去で言うと『ピエタ』(大島真寿美 著/ポプラ文庫)もそうだし、『シューマンの指』(奥泉光 著/講談社文庫)や『船に乗れ!』(藤谷治 著/ポプラ文庫ピュアフル、小学館文庫)などもありました。作家さん自身が音楽好きという場合も多いですね。小説は頭のなかで想像しながら読むものですが、音楽は実際に聴くことができるので、小説に音楽が加わることでよりイメージの世界が広がっていくように思います。

 

林田 作家も音楽に対して好奇心を持って作品にするし、書店員もそれに票を投じるし、読者にも受け入れられると。

 

高頭 私としては、音楽小説だから人気が出るというよりも、たまたま読んでみたら音楽が出てきてその音楽に興味を持った結果、より一層イメージが広がって、その小説をもっと好きになる、そして周りにも薦めたくなる、そういうことだと思うんです。小説から音楽に入るパターンと、音楽から小説に入るパターンと、両方ありますよね。

 

林田 文学の世界では、読者の掘り起こしはひとつの課題でもあると思うので、音楽が突破口となって新しい読者を獲得するということは、もっとあってもいいのかもしれませんね。その意味で、今回ナクソスから発売された『蜜蜂と遠雷 音楽集』は画期的だと思います。

文学だからこそ表現できる、音楽の本質とは?

林田 今回のテーマは、言葉がいかにして音楽を表現しうるか、そして文学作品のなかで音楽がどのような役割を果たしているのか。その視点で『蜜蜂と遠雷』を読んでいくと、音楽の世界では決してなし得ないような音楽の描写が、ここでは実現しているように感じます。

音楽評論家が演奏のことを文章にする際には、あくまで客観的にその演奏や音楽の特徴を追っていくわけですが、それだけではどんなに言葉を尽くしても、少しも音楽の本質に近づくことはできないんですよ。

それがこの『蜜蜂と遠雷』では、音の描写ももちろん素晴らしいのですが、それだけではなく、お互いの演奏を聴き合う登場人物たちの反応や心の動きも細やかにつづられています。登場人物の心のなかで音楽がどのように輝いたのかを丹念に追うことによって、音楽を描き出している。それがいい。コンテスタントたちの人生とか人間関係とか、そういったものが複雑に絡み合って、音楽と一緒に輝くからこそ、この小説に書かれている音楽というものはすごく真実味があるような気がします。

 

高頭 本当にそうですね。それから、ピアノを弾いたことがほとんどない私としては、弾いている側の感情の描写というのもとても興味深かったです。こんな風に感じながら、表現しているんだなって。もちろん出てくる曲も知らない曲ばかりなのですが、イメージがびしばし伝わってきたのは、やはり恩田陸さんのすごさだなと思いますね。

音楽と文学が「支え合う」ということ

林田 もうひとつ感じたのは、この小説を通して音楽と文学が「支え合っている」ということ。音楽は、直接的に人の感情に働きかけることができる一方で、(歌詞があるものを除いて)具体的な言葉を持ちません。言葉というのは、私たちにとって思考の道具であり、人の背中を押す力もあり、よすがになるものだと思うんですよ。それを持たないということは音楽の弱みといえますが、いい小説を読むことで、自分自身のなかにいい言葉が積もって、それが音楽を助けてくれるということもあるのではないでしょうか。

 

高頭 というと?

 

林田 例えば『蜜蜂と遠雷』には、音楽家であることを一度は放棄した栄伝亜夜や、音楽を諦めてしまおうかと迷っている高島明石といった人物が登場します。実はそういった葛藤はすべての芸術家にあるもので、例えば五嶋みどりさんのような誰もが認める大ヴァイオリニストですら、「30歳を過ぎてようやくヴァイオリニストになろうと思った」と言っていたことがありました。活躍している人ほど、迷いを抱えていたりする。そのことを理解したうえでこの『蜜蜂と遠雷』を読むと、音楽をやろうとする人の背中を力強く押すような言葉がたくさん散りばめられていることに気がつきます。文学と音楽が支え合うという、かけがえのない瞬間を、僕はこの小説のなかに見た気がしました。

 

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高頭 素敵な考え方ですね。では最後に書店員の私から、おすすめの音楽小説を紹介させてください。まずは『ラバー・ソウル』(井上夢人 著/講談社)。ビートルズの同名のアルバムに入っている曲名が、各章のタイトルになっています。それから、『スイングしなけりゃ意味がない』(佐藤亜紀 著/KADOKAWA)。これはナチスドイツでジャズを愛した少年たちの青春物語。そして、ピアソラの同名アルバムが登場する『ゼロ・アワー』(中山可穂 著/朝日新聞出版)。どれもストーリー自体が素晴らしいですし、さらにそこに音楽が重なることで、幸せな読書時間が生まれます。ぜひ読んでみていただきたいです。

 

 

※本イベントは2017年6月28日、Gibson Brands Showroom TOKYOにて開催されました。

 

 

『蜜蜂と遠雷 音楽集』

 

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仕様: CD2枚組/全19曲収録/特製紙ジャケット(恩田陸書き下ろしエッセイ付き)

価格: ¥2,160(税込み)

公式サイト: http://naxos.jp/news/NYCC-27303-4

 

 

『蜜蜂と遠雷』

 

10300

 

恩田陸 / 著

公式サイト: http://www.gentosha.co.jp/book/b10300.html

 

 

林田直樹 Profile

音楽ジャーナリスト、評論家。慶應義塾大学文学部卒。クラシック音楽を始め、オペラやバレエに至るまで、幅広い分野で取材、執筆活動を行っている。近著に『ルネ・マルタン プロデュースの極意 ビジネス・芸術・人生を豊かにする50の哲学』(アルテスパブリッシング)がある。

 

高頭佐和子 Profile

本屋大賞実行委員。大学卒業後、青山ブックセンター、ときわ書房を経て、現在は丸善・丸の内本店に文芸書担当として勤務している。

2017.07.10 更新

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